マキタ早わかり

牧田電機製作所は1915年3月21日、愛知県名古屋市に創業した。前年に勃発した第一次世界大戦の大戦景気により、電力需要が急増していた時代である。

名古屋電灯（現中部電力）に就職後、独立を夢見ていた牧田茂三郎は、経営不振に陥った東京の明治電気の名古屋分工場の閉鎖と機械設備の売却を聞きつけ、設備の買い取り契約を結ぶ。また同時に明治電気に対して工員派遣も要請。このとき指名された後藤十次郎が会社の礎を築くことになる。

21歳の茂三郎を工場主に、17歳の十次郎、他2名の計4人の町工場。このささやかな規模で始まった電灯器具、モータ、変圧器などの修理販売業が、当社の出発点となった。

朝鮮戦争後の不況で営業不振に陥り、倒産の危機にあった1955年、後藤十次郎が社長に就任した。そのような状況下で、十次郎は「独自製品の開発」を掲げた。従来の主力製品であるモータは、機械の動力源として使われる部品のため差別化が図りにくく、相手先の業績に需要が左右されてしまうからだ。

従業員らは手探りで新しい製品の種を探した。そして1957年、「携帯用電気カンナ」の開発に着手。翌1958年、ついに国産初の携帯用電気カンナ「モデル1000」が誕生した。モータとは生産プロセスも販売先も全く異なるが、長年のモータ生産技術を活かした性能と輸入品のおよそ3分の1という思い切った価格設定に自信があった。

「モデル1000は未経験者でも経験者と遜色なく、均一な仕上がりを実現できる」と発売直後から好評を博し、全国の建築木工業者に広まった。こうして当社は、電動工具の専門メーカーへと転換を遂げたのである。

1970年、近代的な生産設備を備えた新工場が愛知県岡崎市に完成。1980年代にはコンピューター制御による自動化を推進し、生産性と品質向上を図った。

一方、海外展開も本格化。1970年に初の海外現地法人としてマキタ・アメリカをニューヨークに設立し、続いてシカゴやロサンゼルスなど主要都市に拠点を構えた（後に本店をロサンゼルスへ移転）。アメリカは電動工具の本場であり、現地メーカーとの競争が激しかったが、日本製品の質の高さが注目されたことをきっかけに、コストパフォーマンスの良さと、質の高いアフターサービスが評価され、着実に北米市場へ浸透していった。

アメリカに続きフランス、イギリス、オーストラリアなどにも現地法人を設立。各国の情勢に即した戦略を実践し、「世界のマキタ」として成長を遂げていった。

1970年代から1990年代初頭にかけて、マキタは貿易摩擦や円高への対応を迫られた。1990年にバブル経済が崩壊すると、先の見えない平成不況が訪れる。こうした状況で、後藤昌彦社長（現取締役会長）はマキタの長期目標「Strong Company」を打ち出し、外部環境に左右されない強い企業を目指した。

為替リスク回避のため現地生産を拡大し、すでにあったアメリカ、ブラジルの工場に加え1991年にイギリス、1995年に中国でも生産を開始。海外工場への生産シフトを進め、輸出企業から真のグローバル企業へと転換していった。

2005年には業界に先駆けてリチウムイオンバッテリを搭載した充電式インパクトドライバを発売。バッテリの長寿命化と小型・軽量・ハイパワー化に成功した。同年には低振動機構（AVT：Anti Vibration Technology）を搭載した電動ハンマドリルを投入。従来機に比べて作業能率を20％向上させたうえで、振動は約30％低減した。リチウムイオンバッテリ製品とＡＶＴ製品は世界の電動工具市場に大きなインパクトを与え、マキタの高い技術力を知らしめブランドのイメージアップに貢献することとなった。

2005年、業界に先駆けてリチウムイオンバッテリをプロ用電動工具に採用したマキタは、ラインアップ拡充に注力。2009年からは電動工具に次ぐ事業の柱として、園芸用機器（OPE：Outdoor Power Equipment）の開発強化に乗り出す。

2012年にはスピーディーかつ軽量な充電式草刈機を開発し、インパクトのあるテレビCMで「充電式草刈機はマキタ」のイメージ醸成に成功。2017年からはゼロエミッションキャンペーンを展開し、充電式OPEに対するマキタの認知度を着実に高めている。

2015年に創業100周年を迎えた際、次の100年に向けた大きな戦略の1つが「エンジンから充電へ」である。独自のモータ技術と充放電技術を活かし、エンジン式が主流のOPE製品の充電化を推進し、いかなる経営環境のもとでも永続していくために、脱炭素社会の実現に向けて新たな挑戦を続けていく。